「先週、Googleマップに事実無根の口コミを書かれてしまって……どうすればいいのか全然わからなくて」
飲食店を営むオーナーさんから、こんな相談を受けることがあります。せっかく丁寧に料理を作り、スタッフとともに接客に励んでいるのに、悪質な書き込みひとつで評判が傷ついてしまう。それが本当のことではないとしたら、なおさら怒りと悲しみが込み上げてくることでしょう。
今回は、ネット中傷の削除・投稿者の特定・炎上対応を専門とし、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)や「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年〜)の構成員も務める清水陽平弁護士(法律事務所アルシエン)にお話を伺い、飲食店オーナーが本当に知りたい疑問に一つひとつお答えします。
「削除できる口コミとできない口コミの違い」から「弁護士に相談すべき判断基準」「予防策」まで、実践的な内容をお届けします。
【この記事の結論】悪質な口コミは「正しい手順」で削除できる
| 疑問・知りたいこと | 結論・まずやるべきこと |
|---|---|
| その口コミ、削除できる? | 事実無根の誹謗中傷やプライバシー侵害は削除対象。個人の感想(まずい等)は難しい。 |
| まず何から始めるべき? | 削除依頼の前に、まず「スクリーンショット」で証拠を保全する。 |
| 自分で削除依頼できる? | 可能。 Googleビジネスプロフィールから「不適切なクチコミ」として報告する。 |
| Googleが削除してくれない場合は? | 弁護士に相談し、法的手段(仮処分申立て等)を検討する。 |
| 弁護士費用はどれくらい? | 法律事務所によるが、着手金15万円程度〜が目安。 |
| 削除できない口コミはどうする? | 誠実な返信と、地道に高評価の口コミを増やす対策が有効。 |

飲食店にとって、Googleマップの口コミは「死活問題」になりうる
星ひとつが集客を直撃するメカニズム
Googleマップで飲食店を探す消費者が年々増えています。株式会社トライハッチが2024年5月に実施した調査によると、Googleマップでレストランや居酒屋を検索したユーザーの73%が実際に来店しており、検索から来店への転換率は非常に高い水準にあることがわかりました。
さらに、イクシアス株式会社が2025年4月に発表した飲食業界向け調査によると、口コミの点数が「3.8以上」を来店の安心ラインとする人が全体の約半数(49.6%)を占めています。つまり、平均評価が3.7点を下回っただけで、来店を見送られる可能性が格段に高まるということです。
Googleマップの★評価とレビュー件数は、ローカルSEOの評価指標として重要な位置を占めており、平均評価が下がると検索順位やクリック率にも影響が出るとされています。食べログや各種グルメサイトと異なり、Googleマップは無料で掲載費が発生しないため、消費者からの信頼度も高い傾向にあります。
「お店を検索する → 口コミを確認する → 来店を決める」という動線が日常化した今、Googleマップ上の評価はまさに飲食店経営の生命線といっても過言ではありません。
悪質な口コミを「放置」するとどうなるか
悪質な口コミを放置することのリスクは、評価の低下だけにとどまりません。Googleマップ上の口コミがスクリーンショットとしてSNSでシェアされ、まとめサイトに転載される…そんな二次拡散が起きると、口コミ自体が削除されてもネット上にその情報が残り続けます。業界ではこれを「デジタルタトゥー」と呼ぶこともあります。
多くの消費者は、口コミの内容によって来店するかどうかを左右されます。たった一つの悪質な投稿が、何十人・何百人もの潜在顧客の来店判断に影響を与えかねません。
ブランドセキュリティ部門での経験から言えることがあります。ネット上のネガティブ情報は、発見が遅れれば遅れるほど対処が難しくなります。「自然と消えるだろう」と様子見をしている間に状況が深刻化するケースを、私は何度も目の当たりにしてきました。まずは「現状を正しく把握すること」が第一歩です。
「この口コミ、消せる?消せない?」削除できる基準を整理する
削除される可能性が高い口コミの3パターン
Googleはマップユーザーの投稿コンテンツに関するポリシーを公開しており、このポリシーに違反する口コミは削除対象となります。飲食店でよく問題になるケースを整理すると、主に以下の3パターンが削除される可能性が高いと言えます。
パターン①:Googleのポリシー違反に該当する口コミ
- 実際に来店していない(または来店を確認できない)ユーザーによる投稿
- 競合店舗による組織的な低評価・嫌がらせ投稿
- 同一アカウントまたは複数のアカウントから繰り返し投稿される口コミ
- スパム・無関係なリンクや宣伝目的のコンテンツ
- 差別的表現・罵詈雑言・性的表現を含む口コミ
パターン②:名誉毀損・信用毀損に該当する口コミ
- 「腐った食材を使っている」「食中毒が出た」など、虚偽の事実を断定的に記述した投稿
- 従業員の個人名を使った攻撃的な内容(個人情報の記載もポリシー違反)
- 事業者の社会的評価を著しく低下させる虚偽の情報
パターン③:偽計業務妨害に該当しうる悪質投稿
- 実際には起きていない食中毒や異物混入をでっちあげる内容
- 明らかに営業妨害を目的とした組織的な低評価操作
清水弁護士によると、削除が認められるかどうかは「①Googleのコンテンツポリシー違反に当たるか、②日本の法律(名誉毀損・プライバシー侵害など)の要件を満たすか」という2点が判断の軸になるとのことです。
逆に、削除が難しい口コミの典型例
一方、「不満に思うけれど削除は難しい」というケースも少なくありません。以下のような口コミは、Googleのポリシー違反に該当せず、削除を申請しても認められないことがほとんどです。
| 口コミの内容例 | 削除の可否 |
|---|---|
| 「料理がまずかった」「期待外れだった」 | ✗ 難しい(個人の感想) |
| 「店員の対応が悪かった」「態度が冷たかった」 | ✗ 難しい(個人の感想) |
| 星だけ(コメントなし)の低評価 | ✗ 難しい(組織的操作の証明が必要) |
| 「二度と行かない」「おすすめしない」 | ✗ 難しい(意見・感想のレベル) |
| 「腐ったものを出された」(虚偽の事実を断定) | △〜○ 削除の余地あり |
| 実際に来店していない人物による投稿 | △〜○ 証拠があれば可能性あり |
「まずかった」「対応が悪かった」という個人の感想は、書き込まれた側にとって不本意であっても、Googleはそれを言論の自由の範囲として認める姿勢をとっています。削除を申請する前に、まず「これはポリシー違反か、それとも個人の感想か」を冷静に見極めることが大切です。
まず自分でできること | Googleへの削除依頼の手順と注意点
STEP1:まず「証拠の保全」を行う
口コミを発見したら、最初にすべきことは削除依頼ではなく、証拠の保全です。
- 問題の口コミのスクリーンショットを複数パターン(全体・詳細)で保存する
- 日時・投稿者のアカウント名・口コミの全文が確認できる形で記録しておく
- 可能であれば、投稿者の他の口コミも確認・保存する
清水弁護士は、
「証拠保全を怠ると、後で法的手段を検討する際に非常に不利になります。口コミが自然に消えることもありますが、消えてしまってからでは発信者の特定が難しくなる場合もある」
と指摘されています。また、発信者のIPアドレスなどのログデータはプロバイダに3〜6ヶ月程度しか保存されないため、投稿者の特定を視野に入れる場合は早期の対応が不可欠です。
STEP2:Googleビジネスプロフィールから「不適切なクチコミを報告」する
証拠保全が完了したら、削除依頼に進みます。Googleへの削除依頼はGoogleビジネスプロフィールのヘルプにも操作方法が掲載されており、以下の手順で行えます。
- Googleビジネスプロフィールの管理画面にログインする
- 対象の口コミを表示し、右上の「⋯(その他)」から「レビューを報告」を選択する
- 違反の種類(スパム・不適切なコンテンツ・利害関係など)を選択して送信する
オーナー権限がない場合でも、Googleマップ上から一般ユーザーとして「レビューを報告」することが可能です。審査の結果は通常72時間〜1ヶ月程度で判断されますが、結果が通知されないこともあります。
「審査完了 – ポリシー違反なし」と判断された場合は、1回限りの再審査請求を送信できます。
STEP3:それでも削除されなかった場合の次の選択肢
Googleへの削除依頼が認められなかった場合の選択肢は、大きく2つあります。
- 法的手段(弁護士への相談)に切り替える
- 削除は諦め、誠実な返信や高評価獲得などの対処に軸足を移す
どちらを選ぶかは口コミの内容や深刻度によりますが、虚偽の事実が含まれる悪質な投稿であれば、早めに法的手段を検討することをおすすめします。

弁護士に依頼するとどう変わるか?法的手段の全体像と費用感
弁護士が使える3つの法的アプローチ
Googleが任意の削除に応じない場合、弁護士を通じた法的手段が選択肢になります。主なアプローチは以下の3つです。
①Googleへの法的削除請求
名誉毀損やポリシー違反の証拠を添えて、弁護士からGoogleに対し正式な削除請求を行います。Googleには「法的削除に関連する問題を報告する」リクエストフォームも用意されており、弁護士が法的根拠を示して申請することで、個人による報告より審査が通りやすくなるケースもあります。費用の目安は着手金15万円程度〜(法律事務所によって異なります)。
②仮処分申立て
裁判所を通じてGoogleに削除命令を求める手続きです。裁判所が削除を認めれば、Googleはほぼ確実に対応します。費用や期間は案件の複雑さによりますが、申立てから数ヶ月程度かかることが一般的です。Googleが争うケースでは半年〜1年以上かかることもあります。
③発信者情報開示請求
投稿者を特定して、損害賠償請求や刑事告訴につなげるための手続きです。2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法により、「発信者情報開示命令申立」という新しい手続きが加わり、以前より迅速な対応が可能になりました。ただし、コンテンツプロバイダ(Google)とアクセスプロバイダ(通信会社)の2段階で手続きが必要な点は変わりません。
清水弁護士は総務省の発信者情報開示制度の検討にも携わってきた立場から、
「制度の改正で手続きは迅速化されましたが、IPアドレスのログ保存期間は依然として3〜6ヶ月程度が多く、早期に動くことが依然として重要です」
と強調されています。
「削除代行業者」には注意が必要
ネットで検索すると、弁護士以外の業者が「口コミ削除代行」を謳っているケースがあります。しかし、口コミの削除依頼は法律事務に該当するため、弁護士以外の者が業務として行うと「非弁行為」として弁護士法に違反する可能性があります。
以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- 「即日削除保証」などの誇大広告を謳う業者には特に注意が必要
- 業者を通じた不適切な操作によりGoogleアカウントがペナルティを受けるリスクもある
- 費用を支払ったにもかかわらず何も解決しないというトラブル事例も報告されている
費用を節約しようとして業者に依頼することで、かえって状況が悪化するリスクがあります。法的な対処が必要な口コミには、必ず弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すべきか判断するチェックリスト
以下の項目に一つでも当てはまる場合は、早めに弁護士への相談を検討してください。
- 虚偽の事実が具体的かつ断定的に書かれている
- 従業員や特定の個人の名前が使われた攻撃的な内容が含まれている
- 競合店舗や利害関係者による組織的な低評価が疑われる
- Googleへの削除依頼が認められなかった(再申請も却下された)
- 口コミがSNSなどに拡散し始めている
- 売上や予約数に明らかな影響が出ている
Googleが削除してくれなかったら?削除できない口コミへの現実的な対処法
「誠実な返信」がむしろ信頼を生む
口コミが削除できなかった場合、次に有効な手段が「オーナーからの誠実な返信」です。悪い口コミへの丁寧な返信は、投稿者本人への対応であると同時に、その口コミを読んでいる潜在顧客への発信でもあります。第三者から見て「誠実な店だ」という印象を与えることが、ブランドを守る重要な一手になります。
返信文の構成例をご参考までにご紹介します。
〇〇様
このたびは、貴重なご意見をいただきありがとうございます。
ご不快をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした。いただいたご指摘を真摯に受け止め、(改善の内容を具体的に)取り組んでまいります。またの機会に、改善された姿をご確認いただけますと幸いです。
(店舗名)スタッフ一同
注意したいのは、感情的な反論や弁解に終始した返信は逆効果になりやすいという点です。清水弁護士からも、
「感情的な返信は炎上リスクを高め、新たなトラブルの火種になる可能性がある」
という指摘がありました。冷静で誠実な返信こそが、ブランド価値を守る最善策です。
高評価の口コミを増やして、ネガティブを目立たなくする
もう一つの現実的な対処法が、高評価の口コミを増やすことです。悪質な口コミの影響を相対的に薄めることができます。
ただし、やってはいけないことがあります。
- 自分でアカウントを作成して自作自演で口コミを書く(Google規約違反)
- 業者に依頼してサクラレビューを購入する(規約違反 + アカウント停止リスク)
- 割引や特典と引き換えに口コミ投稿を依頼する(規約違反)
正当な方法として有効なのは以下のような施策です。
- 会計時に「よろしければGoogleの口コミをいただけると嬉しいです」と伝える
- QRコードを掲載したポップやカードを卓上・レジ横に設置する
- Googleビジネスプロフィールの「口コミを書いてもらう」リンクをSNSやメールで共有する
悪質な口コミを書かれないために。「予防」こそが最大の対策
Googleビジネスプロフィールを「育てる」日常管理
ブランドセキュリティ部門に在籍していた頃、「想像と違った」系の悪口コミがどのようにして生まれるかを分析していたことがあります。多くの場合、トラブルの発端は情報のギャップでした。
営業時間が実際と違う、定休日が更新されていない、メニューが古い——そうした些細なズレが「期待を裏切られた」という感情につながり、悪い口コミとして表れます。
まず取り組むべき日常管理のポイントを整理します。
- 営業時間・定休日・臨時休業の情報を随時最新に保つ
- 料理や内装の写真を定期的に更新し、現状と差がない状態を維持する
- メニューや価格の変更があればすぐにプロフィールに反映させる
- 口コミへの返信を習慣化し、週1回以上はモニタリングする
口コミのモニタリングは面倒に感じるかもしれませんが、週1回チェックするだけで「問題が起きてから対処する」のではなく「問題が大きくなる前に対処する」ことができます。
「炎上の芽を摘む」早期検知の重要性
清水弁護士は取材の中で「炎上対応で最も重要なのは初動の速さ。早期に発見できれば、対処の選択肢が格段に広がります」と語ってくださいました。
口コミやSNS上のネガティブ情報を早期に察知するための手段として、Googleアラートの活用が手軽でおすすめです。
Googleアラートの設定方法(簡単3ステップ)
- Googleアラート(https://www.google.co.jp/alerts)にアクセスする
- 「自分の店舗名」「店舗名 + まずい」「店舗名 + 最悪」などのキーワードを登録する
- 該当するWeb上の情報が新たに出現した際にメールで通知が届くよう設定する
炎上の「芽」のうちに気づくことができれば、適切な初動対応で被害を最小限に抑えることができます。予防と早期検知——この2つが、Googleマップの口コミリスクから店を守る最大の武器です。
よくある質問
Q:飲食店のオーナーが自分でGoogleマップの口コミを直接削除することはできますか?
A:オーナー自身が直接口コミを削除する機能はありません。できるのは「不適切なクチコミとして報告する」削除リクエストのみで、最終的な削除判断はGoogleが行います。Googleが応じない場合は、弁護士を通じた仮処分申立て等の法的手段が選択肢になります。
Q:「まずかった」「対応が悪かった」という口コミも削除できますか?
A:個人の感想レベルの投稿はGoogleのポリシー違反に該当せず、削除は難しいのが現実です。ただし、「腐った食材を使っている」など虚偽の事実が含まれる場合や、従業員の個人名を挙げた攻撃的な投稿は削除対象になりうるため、判断に迷う場合は弁護士への相談をおすすめします。
Q:星だけの低評価(コメントなし)は削除できますか?
A:コメントがない星評価のみでは削除が非常に難しいとされています。ただし、組織的な評価操作であることを証拠で示せれば削除対象になる可能性があります。複数の不審な低評価が続く場合は弁護士への相談を検討してください。
Q:弁護士に口コミ削除を依頼するといくらかかりますか?
A:法律事務所によって料金形態は様々ですが、Googleへの法的削除請求の着手金は15万円程度〜が目安です。仮処分申立てや発信者情報開示請求が必要になると追加費用が発生します。初回無料相談を実施している事務所も多いため、まずは相談してみることをおすすめします。
Q:口コミの投稿者を特定して訴えることはできますか?
A:可能です。「発信者情報開示請求」という手続きを通じてIPアドレスなどの情報を開示させ、投稿者を特定したうえで損害賠償請求や刑事告訴を行うことができます。ただし、IPアドレスのログは3〜6ヶ月程度で消えてしまうため、早期の対応が重要です。
Q:削除依頼業者(弁護士以外)に頼んでも大丈夫ですか?
A:注意が必要です。口コミ削除依頼は法律事務に該当するため、弁護士以外が業務として行う場合は「非弁行為」として違法となる可能性があります。「即日削除保証」などを謳う悪質業者も存在するため、必ず弁護士に相談することを推奨します。
まとめ
今回の取材と調査を通じて明らかになったのは、「悪質な口コミは、状況によっては確かに削除できる。ただし正しい手順と専門家の判断が必要」ということです。
対応の基本ステップを振り返ると、まず「証拠保全」を行い、次に「Googleへの削除依頼」、それでも解決しなければ「弁護士への相談」という流れになります。削除できない場合でも、「誠実な返信」と「高評価の口コミを地道に増やす」という対策が有効です。
そして、取材を通じて特に印象に残ったのは、清水弁護士が繰り返し強調されていた「予防と早期検知の重要性」です。日頃からGoogleビジネスプロフィールを最新の状態に保ち、定期的に口コミをモニタリングすることが、あなたのお店を守る最大の防衛策になります。
まずは今日、自店の口コミを一度確認するところから始めてみてください。そして気になる口コミがあれば、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。
