企業のSNS担当者の皆さま、こんな風に思ったことはありませんか?
「この投稿、本当に大丈夫かな…」
「ちょっと攻めた表現だけど、ユーザーにどう思われるだろう?」
その直感、とても大切です。SNSは企業の顔として顧客と直接つながれる強力なツールですが、一歩間違えれば、たった一つの投稿が大きな「炎上」につながりかねません。
実際に、一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所とシエンプレ株式会社が共同で発行した「デジタル・クライシス白書2025」によると、2024年の炎上発生件数は1,225件。そのうち、法人など(企業・団体・学校・病院など)の炎上は421件にものぼり、これは1日に1件以上の法人が炎上している計算になります。
「うちの会社は大丈夫」と思っていても、決して他人事ではありません。そこで本記事では、広報担当者の皆さまが投稿前にご自身でリスクを診断できる「SNS炎上リスク自己診断チェックリスト20」を、具体的な事例や対策とともにご紹介します。
なぜ今、広報担当者にSNS炎上リスクの自己診断が必要なのか?
SNSの炎上は、もはや単なる「ネット上の騒ぎ」では済まされません。一度火が付くと、その影響は企業の根幹を揺るがす事態にまで発展する可能性があります。
2025年最新のSNS炎上トレンドと企業が受ける深刻なダメージ
2025年に入ってからも、企業のSNS炎上は後を絶ちません。特に目立つのは、個人情報の漏洩、不謹慎な投稿、そしてジェンダーに関する配慮不足による炎上です。
例えば、ある企業がキャンペーンの当選者発表で個人情報を誤って公開してしまったケースや、災害発生直後に通常通りの宣伝投稿を行い「不謹慎だ」と批判を浴びたケースなど、枚挙にいとまがありません。また、「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が表れた広告表現が炎上するケースも増加しています。
SNS炎上が企業に与えるダメージは、私たちが想像する以上に深刻です。具体的には、以下のようなリスクが挙げられます。
| 影響のカテゴリー | 具体的な内容 |
|---|---|
| 売上・業績への直接的打撃 | 不買運動による売上減少、客離れ、取引先からの契約見直し |
| ブランドイメージの失墜 | 長年かけて築き上げた信頼や評判が数時間で崩壊 |
| 人材採用への悪影響 | 「ブラック企業」などのネガティブな評判が広まり、採用活動が困難に |
| 株価の下落 | 企業の将来性への不安から、投資家が離れて株価が下落 |
| 従業員の疲弊 | クレーム対応の増加、社内の雰囲気悪化による従業員の離職 |
実際に、炎上したSNS投稿を見たユーザーの33.5%が「その企業の商品やサービスの購入・利用をやめた、または検討し直した」という調査結果もあります。炎上は、確実に企業の体力を奪っていくのです。
「知らなかった」では済まされない!担当者が問われる法的責任とは?
近年、SNS上の誹謗中傷や人権侵害が社会問題化したことを受け、法整備も進んでいます。特に広報担当者が知っておくべきなのが、2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」です。
参考: 総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)
この法律は、SNSなどのプラットフォーム事業者に対して、誹謗中傷投稿への迅速かつ適切な対応を義務付けるものです。これにより、企業は自社の投稿が他者の権利を侵害していないか、より一層厳しくチェックする必要に迫られています。
また、2022年7月には侮辱罪が厳罰化されるなど、個人の発言に対する法的責任も重くなっています。企業の公式アカウントからの発信は、個人の発言以上に社会的な影響力が大きいと見なされるため、「知らなかった」「そんなつもりはなかった」という言い訳は通用しません。
さらに、著作権侵害、景品表示法違反、名誉毀損など、SNS投稿に潜む法的リスクは多岐にわたります。万が一の場合、投稿担当者個人が責任を問われる可能性もあり、組織的な対策の必要性がこれまで以上に高まっています。
このように、経営リスクと法的リスクの両面から、SNS投稿前の「自己診断」は、もはや企業の広報担当者にとって不可欠なスキルとなっているのです。
【実践編】SNS炎上リスク自己診断チェックリスト20
お待たせしました!ここからは、いよいよ本記事の核となる「SNS炎上リスク自己診断チェックリスト20」をご紹介します。投稿内容、法的権利、炎上テーマ、そして運用体制の4つのカテゴリーに分けて、全20項目をリストアップしました。ぜひ、投稿前の最終確認にご活用ください。
カテゴリー1:投稿内容の基本チェック(5項目)
まずは、投稿の「中身」に関するチェック項目です。誤字脱字といった基本的なミスから、表現の適切性まで、多角的に確認しましょう。
1. 誤字脱字・衍字(不要な文字)がないか
基本中の基本ですが、意外と見落としがちなのが誤字脱字です。企業の公式アカウントでの単純なミスは、それだけで「仕事が雑」「信頼できない」といったネガティブな印象を与えかねません。ツールによるチェックだけでなく、声に出して読んでみる「読み上げチェック」も有効です。
2. 事実に基づいた正確な情報か(ファクトチェック済みか)
日付、曜日、時間、場所、統計データなど、具体的な情報に誤りはありませんか?参照した情報が信頼できる一次情報(公的機関の発表など)であるか、デマやフェイクニュースではないかを必ず確認しましょう。
3. 誤解を招く表現や不快な表現がないか
書き手にはそのつもりがなくても、読み手によっては意図しない形で受け取られてしまうことがあります。特に、身体的特徴を揶揄するような表現や、特定の層を不快にさせる可能性のある内輪ノリなどは避けましょう。
4. 特定の個人・団体を傷つける内容ではないか
競合他社を貶めるような内容や、特定の顧客を批判するような投稿は絶対にいけません。たとえ事実であっても、他者を攻撃する姿勢は企業の品位を下げ、ユーザーからの信頼を失うだけです。
5. 企業アカウントとしてふさわしいトーン&マナーか
親しみやすさを演出しようとするあまり、過度に砕けた言葉遣いや馴れ馴れしい態度になっていませんか?企業のブランドイメージに合った、一貫性のあるトーン&マナーを保つことが重要です。
カテゴリー2:権利侵害・法律違反リスク(5項目)
知らず知らずのうちに、他者の権利を侵害してしまうことは、企業として絶対に避けなければなりません。専門的な内容も含まれますが、基本は必ず押さえておきましょう。
6. 著作権を侵害していないか
インターネット上で見つけた画像や文章、音楽などを安易に使用していませんか?それらにはすべて著作権が存在します。必ず正規の素材サイトを利用するか、制作者から許諾を得るようにしましょう。
7. 肖像権・プライバシーを侵害していないか
イベントの写真などで、一般の方が写り込んでいる写真を本人の許可なく使用していませんか?たとえ背景の一部であっても、個人が特定できる場合は肖像権の侵害にあたる可能性があります。
8. 商標権を侵害していないか
他社のロゴマークや商品名を、自社の宣伝のために無断で使用していませんか?これらは商標権によって保護されています。キャンペーンなどで他社製品に言及する場合は、特に注意が必要です。
9. 景品表示法(景表法)に違反していないか
「業界No.1」「絶対痩せる」といった、客観的な根拠がないのに著しく優れていると見せかける表現(優良誤認)や、実際よりも極端に安い価格を提示して客を誘い込むような表現(有利誤認)は、景品表示法に違反する可能性があります。
10. その他関連法規(薬機法など)に抵触しないか
健康食品や化粧品などを扱う企業は、薬機法(旧薬事法)にも注意が必要です。「〇〇が治る」「〇〇に効く」といった医薬品的な効能効果を謳うことは禁止されています。
カテゴリー3:炎上テーマへの配慮(5項目)
投稿内容が完璧でも、触れるテーマや投稿するタイミングを間違えると炎上につながることがあります。世の中の空気感を読む力が求められます。
11. 「炎上さしすせそ」に該当しないか
SNSエキスパート協会が提唱する、特に炎上しやすいトピックの頭文字をとったものです。これらの話題に触れる際は、細心の注意が必要です。
- さ:災害、差別
- し:思想、宗教
- す:スキャンダル、スポーツ
- せ:政治、セクシャル(ジェンダー含む)
- そ:操作ミス
12. ジェンダーや多様性への配慮ができているか
「男だから」「女だから」といった性別による役割の固定化や、特定のセクシュアリティを揶揄するような表現は、近年特に厳しい目が向けられています。無意識の思い込みが表れていないか、慎重に確認しましょう。
13. 投稿日が「炎上危険日」ではないか
過去に大きな災害や事件、事故が起こった日は「炎上危険日」と呼ばれます。例えば、東日本大震災が起こった3月11日や、終戦記念日の8月15日などです。こうした日に無邪気な投稿をすると、「不謹慎だ」と強い批判を浴びる可能性があります。
14. 直近のニュースや社会情勢と不適切に重ならないか
大きな事件や事故が報じられている最中に、それとは無関係の明るい話題を投稿すると、配慮に欠けるという印象を与えてしまうことがあります。投稿ボタンを押す前に、世の中で今何が起こっているのか、一度立ち止まって確認する習慣をつけましょう。
15. 画像・動画・URLの内容が投稿文と一致しているか
投稿文と添付する画像や動画、リンク先の内容は一致していますか?ウォーターマーク(透かし)が入ったままの画像を誤って投稿してしまい、「著作権侵害だ」と炎上した事例もあります。
カテゴリー4:運用体制・承認フローの不備(5項目)
最後に、個人のスキルだけでなく、チームとしての「仕組み」に関するチェック項目です。人的ミスを防ぐための体制づくりが、炎上防止の最後の砦となります。
16. 正しいアカウントからの投稿か(誤爆防止)
企業のSNS担当者が、プライベートな投稿を誤って公式アカウントで発信してしまう「誤爆」。これは非常に多く、そして深刻な炎上につながりやすいミスです。投稿前に、ログインしているアカウントが本当に正しいか、声に出すくらいの気持ちで確認しましょう。
17. 投稿前に複数人でダブルチェックを行ったか
どんなに気をつけていても、一人では見落としや思い込みがあるものです。投稿案の作成者とは別のメンバーが、客観的な視点で内容をチェックする「ダブルチェック体制」は、炎上防止の基本です。
18. 投稿承認フローに沿っているか
「担当者が作成→上長が承認→責任者が最終確認」といったように、組織として定められた承認フローを遵守していますか?緊急時だからといって、このフローを省略してしまうと、思わぬミスにつながります。
19. 緊急時の連絡体制は整っているか
万が一、炎上の兆候が見られた場合に、誰に、どの順番で、どのように連絡するかが明確になっていますか?夜間や休日に問題が発覚することも想定し、関係者の緊急連絡先をまとめたリストを準備しておきましょう。
20. 予約投稿の場合、投稿時点の状況を確認したか
便利な予約投稿機能ですが、セットした時点では問題なくても、投稿されるまでの間に状況が変わり、不適切な投稿になってしまうリスクがあります。投稿直前に社会情勢と内容が合っているか再確認するフローを組み込むと安心です。
チェックリストで「要注意」だった項目別!今すぐできる改善策
このチェックリストは、作成して終わりではありません。日々の運用の中で着実に活用し、チームの「共通言語」として根付かせていくことが何よりも重要です。ここでは、具体的な改善策を3つの観点からご紹介します。
投稿内容の精度を高める:ダブルチェックと校正ツールの活用
最も基本的な活用法は、投稿ボタンを押す直前の最終確認です。作成した投稿文とチェックリストを並べて、一つひとつ指差し確認するくらいの丁寧さでチェックしましょう。この一手間が、うっかりミスによる炎上を防ぎます。
ダブルチェックを導入していても、確認する人によって基準がバラバラでは意味がありません。このチェックリストをチームの公式な「確認基準」として共有することで、誰がチェックしても同じクオリティを担保できるようになります。「チェックリストの〇番に抵触する可能性がある」といったように、具体的な番号を挙げてフィードバックすることで、修正依頼もスムーズになるでしょう。
また、校正ツールの活用も効果的です。誤字脱字チェックツールや、文章の読みやすさを判定するツールなどを併用することで、人的ミスを減らすことができます。ただし、ツールに頼りすぎず、最終的には人の目で確認することが大切です。
法務・知財リスクを防ぐ:SNSガイドラインの策定と従業員教育
SNSガイドラインには、以下の項目を盛り込むことをおすすめします。
- SNS運用の目的と基本方針
- 投稿してはいけない内容(機密情報、個人情報、誹謗中傷など)
- 著作権・肖像権・商標権に関するルール
- 炎上しやすいテーマへの対応方針
- 承認フローと責任者の明確化
- 緊急時の対応手順
ガイドラインを策定したら、従業員への教育も欠かせません。定期的な研修を実施し、SNSリスクに対する意識を高めましょう。私がブランドセキュリティ部門で研修講師を務めていた際は、実際の炎上事例を題材にしたケーススタディが特に効果的でした。
組織でリスクに立ち向かう:承認フローの見直しと緊急時対応計画
形骸化しない承認フローを作るためには、以下のポイントを押さえましょう。
- 承認者の役割を明確にする:誰が何をチェックするのかを具体的に定める
- 承認の記録を残す:いつ、誰が承認したかを記録として残す
- 定期的に見直す:運用状況を振り返り、必要に応じてフローを改善する
また、万が一炎上が発生した場合に備えて、緊急時対応計画を策定しておくことも重要です。具体的には、以下の内容を事前に決めておきましょう。
- 炎上を検知した際の第一報の連絡先と連絡方法
- 情報収集担当、対応方針決定担当、対外発信担当などの役割分担
- 夜間・休日の緊急連絡網
- 謝罪文のテンプレート(ただし、実際の謝罪時は状況に応じてカスタマイズすること)
事案の検知から最大でも1時間以内に関係者に第一報を届け、状況を共有できる状態が理想です。
よくある質問(FAQ)
Q: 炎上してしまったら、まず何をすれば良いですか?
A: 慌てて投稿を削除するのは逆効果な場合も。まずは事実確認を最優先し、社内で定めた緊急時対応計画に従って、迅速に関係各所へ報告してください。誠意ある初期対応がその後のダメージを最小限に抑える鍵です。感情的な反論や、説明なく投稿を削除することは、さらなる炎上(二次炎上)を招くだけです。
Q: チェックリストはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
A: 最低でも半年に一度は見直しましょう。SNSのトレンドや社会の価値観は常に変化しています。新しい炎上事例などを参考に、自社のチェックリストを常に最新の状態に保つことが重要です。「最近、〇〇というテーマでの炎上が増えているから、新しい項目を追加しよう」といった形で、チェックリストを「育てていく」意識を持ちましょう。
Q: 中小企業でリソースがない場合、何から手をつければ良いですか?
A: まずは「カテゴリー4:運用体制・承認フローの不備」から着手することをおすすめします。最低でも投稿前に本人以外の誰か一人が確認する、というルールを作るだけでもリスクは大幅に軽減できます。高度なツールや専門人材がいなくても、「ダブルチェック」という基本的な仕組みを導入するだけで、多くの炎上は防げます。
Q: 個人のアカウントでの発言も会社の責任になりますか?
A: 従業員が会社の所属を明かしている場合、個人の発言が会社の評判に影響を与える可能性があります。従業員向けのSNSガイドラインを策定し、プライベートでの利用に関する注意喚起も行いましょう。特に、会社の機密情報や顧客情報を個人アカウントで発信することは絶対に避けるよう、周知徹底することが重要です。
まとめ
SNS炎上リスクは、決して他人事ではありません。しかし、正しい知識と仕組みがあれば、そのリスクは大幅にコントロール可能です。
今回ご紹介した「自己診断チェックリスト20」は、投稿を制限するための「縛り」ではありません。むしろ、予期せぬ炎上から企業ブランドを守り、担当者であるあなた自身を守るための「お守り」のようなものです。一つひとつのチェックを習慣化し、日々の業務に組み込むことで、「守りの広報」の土台は着実に強化されていきます。
SNSは、正しく使えば顧客との絆を深め、企業のファンを増やすことができる素晴らしいツールです。炎上を「予防」する文化を社内に根付かせ、自信を持ってSNSを運用していきましょう。ご不明な点があれば、いつでも専門家にご相談ください。
